ブラックミラーシーズン4第3話『クロコダイル』に関する、ネタバレなしの感想や評価と、ネタバレありの結末や考察を書いています。
目次
ブラック・ミラー4-3「クロコダイル」より
監督 キャスト情報
邦題 | クロコダイル |
原題 | Crocodile |
監督・ディレクター | John Hillcoat/ジョン・ヒルコート |
原作・脚本 | Charlie Brooker/チャーリー・ブルッカー |
主演男優 | AndrewGower/アンドリュー・ガワー |
主演女優 | Andrea Riseborough/アンドレア・ライズボロー |
動画配信サービス | Netflix |
ジャンル | 海外ドラマ/SF/サスペンス |
おすすめ度 | ★★★★★★★★★☆(9点) |
エピソード3 あらすじ ストーリー
主人公である女性ミアの恋人のロブは、ミアと二人で酒を飲んだ後、車で帰っている途中に自転車に乗った男性をひいてしまう。
男性はすでに亡くなっており、ロブは自分が酒を飲んでいたこともあり、恐ろしくなって事件を隠蔽しようとなる。
ミアはパニックの中一度はそんなことをしては駄目だと止めようとするが、結局ロブの人生を守るために、自分も共犯となって男性の遺体を湖に遺棄することを手伝った。
15年の時は流れ、ミアは建築家として成功し、旦那と子供に恵まれ幸せな生活を送っていた。
ある日講演会の後ホテルに一人で泊まっていると、そこにロブが現れる。
彼は15年前の事件の罪悪感に耐えられなくなり、被害者の家族に匿名で手紙を送ると言い出した。
そんなことをすれば必ず足がつき、彼だけじゃなく自分のことまでバレてしまい、築き上げた家族との幸せまで全て壊れてしまうと恐れたミアは、その場でロブを害してしまう。
ロブの遺体を処理し、証拠を消したミアだったが、ミアが彼を害した時刻に、たまたまそのホテルに面した道路で起こった無関係な交通事故があったことによって、運命がミアにいたずらをするように絡まり合い、徐々に捜査の手が彼女の元に伸びていくのだった…
ネタバレなし感想・レビュー
私は非常に素晴らしいと思ったこの作品。
オープニングからラストまで、ピンと張った緊張感がまったく途切れることなく、無駄の無いカットと映像美によって、主人公ミアが背負わされる皮肉な運命と悲痛な選択の連続が描き出されます。
10点評価にしなかった理由としては、衝撃的で想像もできないような展開というのは無く、展開や結末はある程度想像ができて、結末にあっと驚くような仕掛けというか、そういう意味での驚きは無かったという点で、9点にはしたのですが、とにかく完成度と緊張感の高い作品で、心にずしんと来る暗くて重いサスペンスです。
すごくストレートな展開で、場面があっちこっちに飛んだり、時系列が前後したりして混乱するということが無く、ストーリーも非常に分かりやすい造りとなっているのですが、かといって単純ではなく、『クロコダイル』というタイトルも相まって、実は噛めば噛むほどに味が出てくるように、色んな解釈の余地もある、深みのある秀逸な中身となっていると私は思いました。
アイスランドで撮影されたそうですが、大自然に囲まれた常に雪で覆われた街が舞台で、どこか陰々たる物悲しさ、静けさが漂う雰囲気と、そしてその圧倒的な美しさには目を見張るものがあります。
目を見張るというと、ブラックミラー シリーズに出て来る建築はいつもものすごくセンスが良いんですが、今回も主人公ミアの家族が住む家は、とんでもなくハイセンスです。
北欧の世界観と先端的な現代建築が合わさると、この世の物とは思えない美しい絵が出来上がり、ため息しか出ません。
主人公の女性は、映画『Oblivion - オブリビオン』のヴィクトリア役などで有名なアンドレア・ライズボロー。
ベリーショートの彼女は、女性から人気を集めそうなクールでクリエイティブな洒落た雰囲気が漂っています。
個人的にはブラックミラー シリーズの中でもトップクラスにおすすめしたい作品でしたので、興味が湧いた方はぜひ視聴してみてください。
ネタバレあり結末・ラスト・考察・感想
⚠以下ネタバレを含むので視聴前の方はご注意ください。
この物語に深く関わって来る近未来的な技術として、記憶を映像としてモニターするという技術と、完全無人運転の配達車両というものが出てきます。
どちらも近い将来それらしい技術が普及するんじゃないだろうかと想像を掻き立てられるような、届きそうで届かない面白い技術ばかりです。
今回ネタバレを含んで考察したい主な観点は「クロコダイル」というタイトルと内容の関連性についてです。
この作品を視聴された多くの方にとって、ラストを見終えた後のずしーんと来る重苦しい感覚を一通り味わった後に、まず最初に頭に思い浮かぶ疑問なのでは無いでしょうか?
「クロコダイル」って何?
私は気になったので、英語のBlack Mirrorレビューサイトや、海外版知恵袋のような質問掲示板サイトを、Google翻訳機能片手に読み漁ったりした結果、いくつかの考えにまとまりました。
これはあくまで私の考えで、あってるかどうかは分かりませんが、おそらく製作者の意図としては、正解不正解ではなく、そういういくつかの解釈が同時にできる味わいを、視聴者に好きなように咀嚼して楽しんで欲しいということなのでは無いかと思います。
まず”クロコダイル”というのはもちろん”ワニ”という意味ですが、クロコダイルで検索してまず出て来る意味に”空涙(Crocodile Tears)”というものがあります。
これは、ワニは涙を流して獲物をおびき寄せ食べる、という中世の伝説からできた言葉で、”嘘泣き”というような意味があります。
また、涙を流しながら獲物を食べる姿から”偽善”というような意味も持つそうです。
また涙で相手を騙すということから”強欲な女”をワニに例える習慣もあったそうです。
ちなみにワニが獲物を食べている時に泣くのは、水中で噛み付いた時に入った水を、目元にある穴から排出しているからなのだそうです。
さらには、海外ドラマ『FARGO』のシーズン1第1話のタイトルにもなっていますが『Crocodile's Dilemma - 人食いワニのジレンマ』という言葉もあります。
”ワニのパラドックス”とも呼ばれていますが、これは次のような内容です。
人食いワニが子供を捕まえ、その母親に「今から何をするかを言い当てられたら、子供を食わないでやろう。でも間違ったら食べてしまうぞ」と言います。
母親が「子供を食べる」と答えると、ワニには次の二通りの行動が考えられます。
- 子供を食べようとしていた場合は、正解なので食べるのを止めるが、食べないと結果母親の言葉が不正解となる。
- 食べようとしていなかった場合は、不正解なので食べてしまって良いのだが、食べてしまうと結果母親の言葉が正解になる。
つまり、どうしても結論がループしてしまい、ワニは食べることも食べないこともできない、という永遠の矛盾を抱えることになる。
そんな感じの意味なのですが、さて”クロコダイル”と一言タイトルにつけられただけで、少なくともこれだけいろんな意味合いが考えられます。
この”Crocodile”という言葉が持つ全ての意味合いが、本作の内容に絡んで作られている、とは考えにくいですが、一つ一つを絡めて解釈して楽しむことは十分にできます。
例えばまずワニは涙を流して獲物を食べるという伝説についてです。
ミアは劇中で、シャジアという名の捜査員の女性をどうしても害さなくてはならず、悲痛な涙を流すシーンがありますが、これを”嘘泣き”と捉えると、とても当てはまりませんが、生きるために食べるべき対象を”食べなくてはいけない涙”と捉えると、ミアはまるで涙を流して獲物を食べるワニのようだと考えられます。
この涙を流すシーンは、この作品で最も印象的なシーンの一つだと言えると思います。
また同時に、他人の犠牲をいくら払ってでも、自分の幸せを守ろうとする強欲な女だとも言えなくもありません。
次に、冒頭で自転車の男性を車ではねてしまい、遺体を湖に沈めたロブが、15年も経った後、自首するわけでもなく、匿名で被害者遺族に手紙を送り、罪悪感から逃れようとします。
この行為は”偽善”以外のなにものでも無いと感じます。
ロブの流した涙は、ワニの涙でしか無いということが言えると思います。
さらに人食いワニのジレンマについてですが、この人食いワニの話では、ワニは問題を投げかけてきます。
それに対して母親が答えるわけですが、答えは無数の中から選び出せるようでいて、実は一つしか選べないんです。
他の答えを言って間違っていたら、子供は食べられてしまう。
ギリギリで子供の命が助かる”かもしれない”という答えは「子供を食べようとしている」という答え以外に無いんですよね。
これとて助かるとは限らない。
ワニが食うか食わないかどっちの判決を下すかに委ねられている。
でも最も助けられる可能性の高い唯一無二の答えです。
こういう、自分の最も大事な対象の喉元にナイフが突きつけられたような状況で、ほとんど唯一無二の答えを迫られる状況、というのが人食いワニのジレンマに登場する母親の状況だとしたら、これとそっくりの状況が本作にたくさん出てきます。
まずは冒頭、酒を一緒に浴びるほど飲んだ後、恋人が人を轢き殺してしまい、まったく目撃者が居ない状況で、すぐ近くに湖があり、必死に隠蔽しようとしている彼の行動を受けて、彼の後の人生の全てがかかっているような選択を迫られて、自分はどうするのか?という問いを突きつけられるミア。
二人で出かけて、車を運転することが分かっているのに、自分も酒を飲みまくり、それでもロブに自首を強要したり、ロブを警察に突き出したりできるのか?
おそらく助手席に乗っていただけの自分は、ロブとは比べ物にならないほどの軽い刑で済むかもしれませんが、それが逆に重くのしかかってくることになるでしょう。
恋人ロブを人質に取られて、「今から何をすべきか当ててみろ。当てたらロブを食わないでいてやる」とワニに言われるわけです。
そこで「救急車を呼ぶ」だとか「警察に電話する」という答えは、ロブにとって致命的なリスクしか無い。
ロブにとって最も無事で済む可能性の高い選択肢を”ミアが”選ばなければならないとなったら、それはもう「隠蔽する」しか残ってない。
ロブが自分で自首すると言えばそれで済むんですが、「絶対にできない」と言い切る愛するロブに対して、一緒に酒をガバガバ飲んでいたミアがそれでも別の答えを貫くというのは、ものすごく難しい選択だと思います。
その次には、ロブが3年ぶりくらいに現れて、15年前のあの事件の被害者に、手紙を出すとか馬鹿なことを言い出します。
この時ミアはキャリアを積み上げ、さらには、愛する夫が居て、子供までできていました。
そんな愛する家族を人質に取られ、またワニが問題を出してきます。
答えに間違ったらお前の家族を食ってやる。と。
家族が無事に済むか済まないかは、ミアの答え方次第にかかっている。
最も危険な答えが、唯一無事で済む可能性を秘めているという母親のジレンマ。
これは捜査員の女性の時も同じことですが、逆にミアに消されることになるこの捜査員の女性シャジアも、ミアという人食いワニに選択しようのない問いを投げかけられます。
「ここに来る前に私のところに来る事を誰かに言った?」
大事な家族を人質に取られ、どう答えても、結論は一つの場所を堂々巡りするだけ。
結局は人食いワニの決心が、食うか、食わないかどちらに傾くかを、天に祈って「No」と答え続けるほか無い。
答え方が一つしか無いような問題を突きつけられる母親的状況だと言えると思うんです。
そしてもう一つ海外のサイトに面白い考察がありました。
それは、記憶を覗くあの装置が”ワニの口のように開く造りをしている”というものです。
それを見てまたこじつけて考えたんですが、ミアは人食いワニを倒してまわっていると思ってたんじゃないでしょうか。
子供を人質に取られた母親が、最も確実に子供を助ける方法は、ワニの質問に正解することではなく、ワニを退治することです。
ミアは難問を突きつけて来るワニ自体を抹消して、愛する者を守っていたはずだったのですが、ワニだと思っていたあの自転車の男性、手紙を出すと言い出したロブ、自分の秘密を知ったシャジアとその家族は、実は愛する者を人質に取った人食いワニの実態では無かったと。
ミアだけじゃなくシャジアにとっても、あのワニの口のような形をした装置こそが人食いワニで、じわじわと忍び寄ってきては、みーんな食べてしまいましたとさ。と幕が下ろされました。
この作品のタイトルが、もし仮に『負の連鎖』とかなんとかセンスの無いタイトルだったとしたら、まったく同じ内容で作ったとしても、今書いたような妄想を膨らます余地が一切無くなるということを考えると、タイトルって大事だなと考えさせられます。
ブラック・ミラー4-3「クロコダイル」より
ブラックミラー でおなじみのあの曲も頻繁に出てきてましたね。
なんのこと?という人はシーズン1第2話『1500万メリット』のネタバレ考察に曲紹介も併せて書いておりますのでご覧ください。
第四話『Hang the DJ』のレビュー記事も合わせてご覧ください。
第二話『アークエンジェル』のレビュー記事も合わせてご覧ください。
ブラック・ミラーレビューまとめ
『ブラック・ミラー』作品の関連記事はこちらの記事に一覧にしておりますのでぜひ他のエピソードもご覧になってください。
Netflixオリジナル作品ブラックミラー
今回ご紹介した『ブラックミラー』シリーズは、Netflixオリジナル作品となっておりますので、視聴されたい方はNetflixへの会員登録が必要となります。
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動画配信サービスについて、人気5サイトのサービス内容を比較し、おすすめ順にランキング形式でご紹介している記事もございますので、こちらもぜひご覧ください。
シーズン4『クロコダイル』予告編youtube動画
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